初恋――貴方を呼ぶ日 第一章・出会いは偶然に……     




 落ち着かない。朝から、いや昨日のあの出来事からずっと落ち着いてくれない。
顔では平静を装いながら、それがうまくやってるのかどうかすらもわからない。
だからこそ思う……

 どうして隣で平気な顔して、時々、弾けるような笑顔の草凪御沙を見ると胸が痛くなるの
か……
 中学になって、大人になってきたと思う。お互いに……
身長はかろうじて頭一つ高くなってはいたが、中身の方は御沙のほうがやっぱりあるように
思える。もっと大人にならなきゃいけない。足掻けば足掻くほど、差が開いていくようにも
思えて……

 御沙は……綺麗になったように思える。中身は相変わらず、無邪気な人だけど……
だけど、どこか……惹きつけてやまない。

 隣で、髪留めに手を伸ばしながら、見比べている御沙を見ながら大きく息を吸い込む。

 ここは駅前にできた新しいデパート。どうしてここに来ているのか、と言うと昨日の夜の
ことを話さなければならない。




 気がたるんでるのかもしれない。予習の最中に寝転がりながら、頭を掻きながら
ふとそんなことを思っていた。

 もちろん、そんなつもりはまったくない。だけど、視界内に御沙の姿があると……
何を気にしてるんだか……
大きく息を吸い込みながら「あー」と声を出す。

 ため息はなるべくつきたくない。この手のことでため息なんて御沙に失礼じゃないか。

「だからってなんでこうなるんだ。ったく……」

 頭を抱えながらごろごろと転がる。
 木の座机に足が引っかかる。上に置いてあったクナイやら、投げ鉄が落ちる。音を立て
散らばっていく。

 大きく息を吸う。ため息を飲み込み、鼻で吐き出す。

 大事にしたいってだけ、ただそれだけのことなのに、どうしても落ち着かない。ただ、
それだけなのに……

 新鮮な空気を吸ったほうがいいのかもしれない。氷河は寝転がったまま、下の方にある
小さな窓のあるところに移動する。手を伸ばし、窓を開ける。
外は暗い。本当ならここから御沙の部屋が見えるのだが、明かりがついていない。
 きっと風呂か何かだろうと判断した氷河は流れてくる風を感じていた。

 いつのまにか、睡魔に襲われ、意識が飛んでいた。
 草凪家の朝は早い。それだから、夜ぐらいしか自由になる時間はない。九時をまわると
激しい睡魔に襲われても普通の反応だ。

トントン

 軽いノックで目を覚ます。こんな時間帯に来る客は――そもそも氷河の部屋に来る客は
――ほとんどいない。
 氷河は「開いてるよ」と声をかける。

「ひょうちゃん、今いい、かな?」

 御沙だった。氷河は素早く飛び起きる。手早く座机から落ちたものを直しだした。
今、まともに御沙の顔を見れそうにない。そのままの姿勢で、氷河は聞く。

「な、んだよ」
「んと、あのね……」

 氷河はなんとなく、御沙の顔を盗み見る。いつもと反応がおかしい。
胸の前に組まれた手は落ち着きない様子だ。光の具合からか、頬が赤いように見える。

「? はっきりしろ」

 思わず言ってしまう。氷河は内心高鳴る心臓と、頬が赤くなっているのを自覚しながら、
混乱してきていた。

「買い物に、ね。いかない?」
「か、買い物?」

 自分でも声が裏返るのがわかった

「駄目かな?」

 御沙のはにかむ笑顔がまともに見られない。盗み見るのも……
氷河は大きく息を吸う。
 頭の中は真っ白、混乱していて、何をどう言おうかと考えてしまっている。

「い、いいよ。いついくんだ?」

 できる限り、動揺しないように、できるかぎり平静を装いながら……
御沙は小さく「よかった……」と呟く。氷河はそれを聞くと、頬がゆるんでしまう。  

 ますます御沙の顔をまともに向けられないような気がしてきた。
……それでも気になって御沙の顔を盗み見てしまうのだけど。

「えーと、明日。学校終わってから。ほら、あそこ。駅前にデパートできたって。そこに
いってみようかな、と……」

 御沙はうつむき加減だ。御沙の表情を盗み見る。
 偶然、御沙の目が合った。反射的に目をそらしてしまった。
 二人とも何も言わずに、不思議な雰囲気になってしまう。気まずい空気が流れる。
口の中が乾いていった。
 何か言わなきゃ、と「あー」と声を出す、氷河は動揺を押し殺すように。その瞬間、氷河
の頭に何か閃く。

「オープニングセール、というやつか?」

 小さくたずねる。

「そうそぅ、それ」

 それにあわせて、御沙も声が小さく答える。

「OK、じゃっ明日な」
「う、うん。忘れて帰らないで、ね」
「そっちこそ」

 御沙が「じゃっ明日ね」とドアを閉め、足早に帰っていく。
氷河は結局、御沙にまともに顔を向けることができなかった。
氷河は寝転がる。火照った顔に冷たい風が撫でていく。

「……明日……明日か……」

 明日は金曜日。門限までには帰ってこれるだろう。
 氷河は頭の後ろで組みながら、ふと思う。

「……これって、デート、なのか?」

 ふとした一言で、再び頬と耳が赤くなった。眠気が一気に吹き飛んだ。

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