当日 6 ホワイトデー編      



 御沙と氷河は、ようやく無事な部屋にたどり着いた。
全域で激しい戦闘があったのか、屋敷の大半がボロボロな状態
だった。
一息つく前に御沙は……
―――確認をしていた。

「胸はない……」

 ぺたぺた。
胸を触っている。

「あ、あの……」

 御沙は桂の顎を指で上げる。喉仏の確認だろうか。

「声変わり、してませんね?」

 確認とるように、言う。

「はぁ……」
「……男?」

 単刀直入、ストレート。まだ疑っている。

「そ、そうだけど?」
「……」

 御沙は大きくため息をつく。

「御沙、もうそれぐらいに……」

 氷河のほうに向き合う。満面の笑顔だ。

「氷河君。本当に男の人でした」

 安心したといわんばかりの笑顔を見せる。

「あ、あのなぁ……」
 氷河はあきれたようだ。
「本当にびっくりしました。女の子のような男の子って身近に
いるものなんですね〜」
「……気、気にしてるのに……」

 桂は嘆くが、氷河は複雑そうな顔をしていた。

「で、桂。例のブツは?」
「ちゃんといるよ。そのバスケットの中」

 御沙は桂から離れたところにおいてあるバスケットを見る。
がさごそと何か動いている。

「これは?」
「開けてみろよ。全てはコイツから始まったんだから」

 氷河はため息をついた。
恐る恐るバスケットを開ける。

「わぁ〜」

 御沙は子どものような声を上げた。
バスケットの中には一匹の白い子犬がもぞもぞと動いていた。

「どうしたの? この子」
「……いやぁ、話せば長くなるのだが……いいか?」

 こくりと御沙は頷く。
ため息混じりに氷河は話し出す。

「バレンタインデーにさ、チョコレートもらったんだ。
コイツと一緒に」
「は?」

 御沙の顔が固まる。あまりに非常識さに耳を疑った。

「さすがにさ、動物もらってもさぁどうしようもないだろ?
ていうか、居候の身だしな。持って帰ることもできなかったし。
だから、桂に頼んで預かってもらったんだ」

「まぁ一ヶ月の期間限定、ということだったから。お礼を
もらいにきたってワケ。でも笑うよな〜。バレンタインデーの
時に、いきなりもらって、放心してるんだぜ、小野先輩は」

 その様子を思い出したように話す。この桂という人はまだ
中学生、だという。二人が通う学園は、中学校と高校が
同じ敷地の中にある。それ故、顔見知りや部活などの上下関係は
しっかりとしている、のだという。

「どこの誰だかわからないし、返すにも返せない。ほんとに
参ったよ」

 学園の生徒ではない、というオチに至ったのだ。その人の
チョコレートは徐々に体力を蝕む毒のようなものだったらしい。

「動物は大事にしないといけないのに……」

 といいながらも、御沙は笑いが止まらない。
もしかしたらこの白い子犬には何か意味があるのかもしれない。
だが、むしろ感謝すべきなのかもしれない。

「……ほんとはこれの持ち主に返そうと思ったんだ。でも
見つかんなくてさ……」

 御沙は手でそれ以上話すのを止める。そして、もう片方の手で
顔を抑える。笑いをこらえているように、御沙は言う。

「……氷河君。多分、お父様、あっさりと了承するわ。
多分お母様も……多分、皆もね」
「え?」

 今度は氷河は固まる。

「基本的に犬は好きなはずよ。お父様は……多分、お母様は
もっと好きだと思う。だって、毛がふかふかしているのに
弱いんですもの……私も、ですけどね」
 嬉しそうに微笑んだ。


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