当日 5 ホワイトデー編      



 御沙の姿を見た、と思ったらいなくなる。
これを何度繰り返したことだろう。
 爆炎の中で、湯煙の中で、砂埃の舞う中で、戦場の中で。
 御沙の姿はまるで幽霊のように思えた。精気のない顔に氷河は
ひどく落ち着かなくなった。

 何時間、たったのだろうか。
既に暗くなろうとしていた。
 強い風が一段と強くなった気がする。
 土蔵の近くで、御沙がいる。
歩き疲れたのか、俯いたままだ。

「……」

 氷河は黙って隣に座った。
その黒髪で顔の表情は判らない。

「探した」
「うん……」

 力無く話す。元気がない。

「何怒ってるんだよ」

 氷河の言葉は温かさを持っている。この寒い外の空気を暖める
ような……

「うん……」

 それでも、御沙はただ頷くだけだった。

「……何を早とちりしてるんだ?」
「……?」
「いいか、何を勘違いしてるかは知らないが、俺は男に興味は
ないぞ」

「え?」

 御沙は反応する。顔を上げる。

「ったく、あいつは桂っていってな。俺のダチだ。性別は男。
今日は俺が預けておいたものを渡しにきただけだ」
「……嘘」
 御沙は信じられない、という声を出す。

「何が嘘だよ。本人に会わせればすぐにわかることだ。残って
もらってるぞ」
「…………」
「御沙、おまえ……」

 氷河は口にしようとして、遮られる。

「……違うもん」

 まるでいじけた子どものような反応。いや、この反応は昔と
変わらない。

「……いつもと違う氷河、見て置いてけぼりにされただけだ
もん。それだけだもん」
「……そうか、わりぃ」

 氷河の反応に、御沙は顔を伏せた。

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