当日 4 ホワイトデー編      




「氷河様っ」

 メイドの行動は素早かった。

「御沙様が、御沙様が……」

 その言い方に氷河の目の色が変わった。
一瞬どうしたのかと思った。

「おい、桂」
「何?」

 氷河ははっとした。目の前の友達の顔を見る。
そして今日は三月十四日だ。
―――なんとなく、合点いった。
 そして同時に背筋が冷たくなるのを感じた。
勘違いも甚だしい。

「おまえ、ここで待ってろ」
「ん? いいけど……高いよ?」

 かつら、と呼ばれた人はクスッと含み笑いをする。
外で犬の鳴き声がする。その声は急げと言っているようにも
聞こえた。

「で、御沙はどっちに?」
「えっと、東棟のほうに」
「あー、それは御沙の部屋に持って行っておいてくれ」
 氷河は全力で走り出した。




「御沙、どこだっ」

 そこはまるで戦場のようだった。
床に刺さった鉄の棒に木刀、窓ガラスも何枚か割られている。

 転がる人を乗り越えて氷河は歩き出す。どこから持ち出したのか、
巨大な木の棒が廊下を占領している。
それに何やら煙い。

 氷河は頬を引きつらせる。外敵を想定した罠だ。しかも、倒れている
のは、全員家の者たちだ。

 発動している罠の先には永遠と人が倒れていた。幸い命には別状は
なさそうだ。
 一体何があったのだというのか。多くの人の倒れた姿を見ることに
なったが、氷河は御沙を追うことにした。




 廊下の奥に曲がっていく。
 精気のない御沙の姿を発見したのは、これで何度目になるだろうか。

「御沙っ」

 叫ぶが、止まる気配はない。曲がり角まで来ると、もうそこには
御沙の姿がなくなっているのだ。
 意識して行っているのか、御沙はトラップのある場所を無傷で、
無発動で歩き去っていくのだ。

 氷河も突破しようとするのだが、一向に御沙との距離は縮まることは
ない。

足のところにピアノ線があって発動するトラップや、上から
ハンマーが落ちてくるトラップや、地雷式や、水が弾丸のように
飛び出したり……
多彩で多様だ。

「くそっ、なんだってこんなに罠があるんだ。くそったれめ」

 氷河は毒づきながらも後を追い続けた。

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