当日 3 ホワイトデー編      




「何やってるんだろう……」

 氷河は廊下で様子を窺っている御沙を見た。手にはお盆と、
 菓子の入った木の入れ物。
御沙の部屋に持って行こうとしていたのだが……

「御沙?」

 ぽんと肩を叩く。
 御沙の悲鳴にならない悲鳴が響いた。
赤面しながら、落ち着きなく氷河を見る。
動揺している? 珍しい。レアだ。

「何やってるんだ? そんなとこで?」
「え、いえ、そのあの、そう……お客様がきてますよ?」
「? あーありがと」

 氷河は御沙に持っていたお盆を手渡しながら、

「ちょっといってくる」

 といって歩き出した。



「なんだおまえか?」
「なんだとはなんだよ。せっかくきてやったのにさ」

 どうやら二人は知り合いらしい。一見仲良さげに見える。
御沙はため息をつく。氷河が知らない女と話しているだけなのに
不安が立ち込めてくる。
 二人の様子を覗いていたが、もう見守るだけの気力がなくなって
いた。

 お盆には二つのコップとお菓子の入った入れ物。蓋がしてあって
中身が何なのかはわからない。
 どこか遠くから聞こえるような声を俯いたまま、聞いていた。

「きてくれなんて……ない……」
「ひどい奴……だっていったのに……」
「……まぁふくれるなって。で?」
「あー……」
「まぁ、これを……」

 氷河は何かを手渡す。嬉しそうに受け取った。
御沙の中で何かひび割れる音がした。
手にしたお盆をメイドに渡す。

「み、御沙様?」

 メイドが話しかける。
 御沙の顔は、今までに見たことのなかった。
あきらかにいつもの優しい微笑みとは違っていた。
悲壮な顔になっていた。今にも泣き出しそうだ。

 なのに、無言で微笑んだような気がした。心配させないように
しているのか。それとも、無意識の行動なのか。

「……」

蒼白な顔で歩き出す。まるで幽霊か何かのその手の類のような
足取りだった。

前のページ 小説へ戻る
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送