当日 2 ホワイトデー編      




 玄関のドアが開くのと、御沙が玄関へと進む廊下に出たのと、
ほぼ同時だった。お互い、目と目が合う。

『あっ』

 お互いの第一声。お互い、間の抜けた声だったに違いない。
まだ幼い顔立ちをしている来訪者はまったく知らない人だった。
一見男の子ではないだろうかと思ったが、

「おはようございます」

 元気よく挨拶してくる声は女のものだと御沙は思った。

「え、あ、おはようございます」

 不意を打たれた御沙は慌てて挨拶を返した。動揺のほうが
激しい。

「えと、小野先輩はいらっしゃいますか?」
「氷河君の?」
「はい」
「えーと……」

 御沙は視線が泳ぐ。声は平静に落ち着かせようとした。

「し、少々お待ちください。今、呼びに行かせますので」

 言葉としては落ち着いた話し方だった。声がうわずってさえ
いなければだが……

 口の中が一気に乾燥していく。
会釈をすると、見えない位置へと移動した。そして、玄関の人の
様子を見ていた。

 可愛い娘だ。
 背は百五十センチ、もしかするとそれより下なのかもしれない。
活発そうで元気に溢れてる。ボーイッシュな感じがする。
髪は短髪。短距離選手なのか。なんとなく、そんなイメージがする。
着ているものは色気のないジーンズ姿。

「あら? 御沙さ……」

 思わず叫びそうになる。慌てて、話しかけてきたメイドの口を塞いだ。
気づかれた様子はない。御沙は、メイドの口を押さえたまま様子を窺う。
今か今かと待つその仕草は、何か特別なものがあるのではないかと
想像させる。

(……あっもしかすると……)

 御沙の中で何か、パズルのピースがはまるような感触がする。

(もしかして、この娘が?)

 御沙は二月十四日の学校での出来事を思い出す。
 氷河が倒れたらしいと聞いて保健室に飛んでいった時のことを。
玄関にいる人をまじまじと見つめる。
 御沙の胸騒ぎはさらに加速していった……

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