当日 1 ホワイトデー編      



 次の日、三月十四日 日曜日
 朝五時三十分……

「あー、そのなんだ……」

 皇華は周りを見回す。
 男衆は覇気がない。何やら夜遅くまで起きていたからだろうか。
いや、よく見ると男衆だけではない。
女衆も何やら覇気がない。中にはあきらかにクマができている。
不自然に体が揺れている人もいる。

「……こりゃぁ練習にもならんか」

 皇華は、いったいなにがあった? と疑問符を浮かべていた。
今日が何の日か、イベント好きな皇華が知らないはずもないのだが、
どうしてこういう状態なのかは理解できなかった。

「しょうがない……今日の朝練はなし。

こんな奴等相手にしたとて時間の無駄だしな。
明日もそんなツラしてやがったら、全員叩きのめすぞ、こら」
 当主皇華の怒声が響き渡った。その最中、幾人かの目が怪しく
光った。




 覇気がないのは無論、御沙も氷河も例外ではなかった。
 二人はいつも並んで座る。

 御沙は真っ直ぐとした瞳をしているが、その実何も見てはいない。
心ここにあらず、という感じだ。思考の小道から抜け出せずに
いるのだ。考えれば考えるほど、頭が変になりそうになる。

 氷河は……目の下のクマがひどい。あきらかに疲労がたまっている
ようだ。
 二人は今日、まともにお互いの顔を見ていないのだった。




 今日は休みだ。今頃気づいた御沙はほっと安堵のため息をついた。
今までうじうじ悩んでいたのが馬鹿らしい、と思ったが気分は晴れなかった。
思考の小道は、まだ御沙の中でぐるぐると巡っていたのだから。

 外出は、する予定はなかった。
だが、いつもの普段着―――浴衣からお気に入りの洋服に袖を通した。
普段はあまり着るものに頓着しないが、気分転換ができるだろうと……
 おかしいところはないかを確認し、くるりと回る。
 白いロングスカートに、白いワンピース。赤いリボンを襟首。
これにロングコートを着れば外に出ることができる。
御沙のお気に入りの格好だ。
…………
 だが、鏡の前に自分は自信なさげに見えた。元気がない。
大きくため息をつく。
 と、遠くでベルの音がした。電話、もしくは呼び鈴だろうか……
……御沙は何やら胸騒ぎがしていた。
 根拠も理由もなかったのだけど……
 漠然と不安が押し寄せ、慌てて部屋を飛び出していった。

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