テロと共に生きる少女――復讐と魔法



 


「分かりました」
その小さな少女はにっこりと微笑み、席を立った。
片手にあるメモを見ながら、少女は読み上げ始めた。
「今から、テロを行います。貴方の言ったコト、やれるものなら
どうぞ?」
発言が終わると同時に赤い閃光が視界を覆った。
「都市国家の長が、テロには屈しない、といったのです。そして、
テロで末代まで抵抗し続ける、といったのです。その言葉と責任、
果たしてもらいましょう」
少女のいたところに騎士が殺到する。一瞬で事態を把握した騎士は
容赦なく少女に剣を振り下ろした。
少女はただ、踵を返しただけ。それだけで命を奪うべく振り下ろ
された斬撃から逃れた。
「まずは、貴方から後悔してもらいましょうか? 長」
それは本当に少女なのだろうか? 疑いたくなるほど無邪気に見え
寒気がするほど、大人びた表情に見えた。
長、と呼ばれた――都市代表者は剣を抜く。
この地を治めるべく戦い生き残った代表者は少女へと向かう。
代表者として逃げるわけにはいかない。あくまでテロをすると言った
少女を殺す。ただ、その一点の殺意だけだ。
上段から振り下ろされる剣に彼女はそっと刃を撫でた。
粉々に粉砕され、細かな粒子が舞う。
「……残念ね。長」
にっこりと笑う。この少女は笑うだけだ。だが、かえって無表情の
ように見える。
都市代表者は恐怖した。
流れる汗を拭うことも、後ろに飛ぶこともできない。周りの騎士達
も動くことができない。
「そうね。後悔の方法だけど、どれがいい?」
誰も動くことができない。
「じゃっ、こうしましょう」
少女は長の胸に手を当てる。冷たい手と、恐怖からか。全身の毛穴
が開く。汗がふきだす。
同時に、長の目の前が黒くなった。少女の触れる手の感触も感じ
なくなる。
唾を飲み込む。味がしない。さっきまで香っていた匂いもしない。
「テロっていってもいくつかあります。それを知っているよね?」
少女の声が聞こえる。耳だけはまだ生きている。
「政治的目的のために起こすものと、仇を討つためのもの。金銭
目的のためのテロ。無論、この三つを見極めることなんてできない。
テロはテロ。でもやり方はいっぱいある、そうでしょう?。自爆テロ
から爆弾テロ、薬とか使うのもテロの一つ。だって」
少女はまるでメモを読んでいるかのように棒読みだ。それが返って
恐ろしい。
「一番怖いテロって何か知ってる? 生きた人間を死んだ人間にする
テロ、だと私は思いますの 貴方はまだ生きている。でも、もう話す
こともできない。いずれ歩くこともできなくなる。ただ一つ、耳と
意識だけは残っている。この都市の人たち全員、テロには屈しないの
よね?
なら、同じようにしてあげる。よかったわね、長。みんな仲間よ」
もつれて転ぶ。代表者は悲鳴を上げる。しかし、もはやうめき声に
しかならない。
「どうしてこんなことをするのかって? 答えは簡単。
私は貴方たちに復讐しているだけ。この生き地獄はこれまでのお礼。
いずれ、この都市に人がいなくなるまで。私は貴方たちを呪うわ。
テロには屈しない、というのは自分は悪くないと公言していること。
貴方たちがしたことを私は忘れない。絶望と恐怖と後悔に苛まれて
消えなさい」
悲鳴が一段と多くなった。



「金目のものは全ていただいた。書類の類は全部燃やした。
これで満足かい? お嬢ちゃん」
城は静けさだけが存在していた。うめく声も、何も聞こえない。
全員が一つの部屋に集まっていたから、というのが一番の理由だろ
う。
「この人たちが全員消えるまでのタイムリミットは十日と見ている」
淡々とした口調で、時々メモを見ながら話す。
「その十日で、心変わりするかどうかを見る」
「ほぅ、どうして?」
「テロに屈するかどうかを問いかけるため。もし、屈すると言った
ら生きそう。その代わりの代償に己の記憶を消す。そして、コマと
して働いてもらう」
「おーおー、怖いな〜おい」
「……それで気が済むならそれでいいのだが?」
従う者は、肩を竦める。
「忘れてはいないか?」
「何が?」
「ここは定期馬車が来るぞ? そいつらをどうするんだ?」
「……」
困ったと言わんばかりに、少女の顔が崩れた。


「……まぁ、救う術はその手の人が見れば分かるだろう」
「それだとテロの意味がないんじゃ? もっと頑なになる」
しばらく歩きながら、ぼそっと口を開く。
「……やはり、滅ぼしたほうがよかったのか?」
「……生き地獄で後悔するのと、すぐに理不尽に死ぬの、どっちが
幸せかって質問かい?」
「縁も何も断ち切るのなら、そのほうがいいだろうし。どのみち、
発狂か、餓死だろうな」
「……選べる分まだ私よりは幸せか」
頭を叩かれる。
「何をする」
「……何があったかは知らん。あいつらに復讐するなら、ここらで
仕事をしなきゃいけないな。お嬢」
「あと十歩ある」
「へぃへぃ」
苦笑している。この男、どうしてついてきているのだろう?
愚問を口に出そうとして止めた。
懐から石を取り出し、地面に埋める。
仕掛けは問題なし。同じように四ヵ所。同じような石を埋める。
十歩、といったのは歩数で間隔を開けているからだ。ここを基点として
事が起こる。
そう……永遠の昔の産物、風を集める魔法の言葉を埋め込んだ石を。
風が集まり始めたのだろう。風の流れを感じる。
緩やかな風だ。だが、風はもう逃げられない。集まり続けるしかない。永遠に……
「これでいい。しばらくは誰もここには入れない」
宣言する。復讐完了までの数日の間だけでも持てば御の字、だ。
「……最初からこうしてればよかったんじゃないか?」
「……」
突っ込まれ、何もいえなくなった。





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