皇華伝  序章2




「若、電話が」

 襖の奥から声がした。声はどこか硬い。
仕事に忠実なためか、メイドの多くは抑揚のない。古くから勤める者でもこれなのだ。
皇華はつまらなげにため息をつく。

「こっちにつなげ」

 命ずるままにメイドは襖を開け、電話を持ってくる。
 部屋の奥までは入ってこない。畳一つ分だけ移動し、受話器を差し出す。
不必要に入らないようにしているのだ。不必要な行動は時として反発を生む。皇華はそれほど気に
してないが、いる時に入ると怒る人も多いのだろう。きっと、メイドたちも面白くないと考えているに
違いない……
 受話器をとり、耳を当て、眉をひそめる。雑音と、聞こえてくる声が遠い!
聞こえにくいな、と小さく呟く。

「何か言ったか?」
「いいや、なんでもない……報告……はいい。いつものところで待っていてくれ」
「了解した。いつものところ、だな?」
「よろしく頼む」

 短いやり取りで電話が切れる。下唇を噛みながらも、受話器は耳にしたまま耳を澄ます。
小さく、途切れる音がした。内線を誰かが話を聞いていたのだ。
 草凪家では今、次の跡継ぎ問題が浮上している。目には見えてないが、争いが激化している。
情報収集の一環だろう。跡継ぎ候補は全てこの屋敷の中にいるのだから。
 親戚も草凪家にいるため、空気がおかしくなっている。ギスギスとした空気のせいか、家の中は居づらい。
おそらくは親戚の誰か、もしくは息のかかった者だろうか。
 専属メイドに視線を向ける。

「誰が、盗み聞きしていた?」
「私には、わかりません」

 会釈をいいながら言う。皇華は目を細める。

「誰か他のヤツなら知っている、というニュアンスがあるな」

 息を呑む音がした。何か、知っているのかもしれない。
すぐにいつもの調子でまた会釈する。

「存じません」
「……そうか」

 皇華は目を閉じる。

「わかった。下がれ」

 誰が話を聞いているのかわからないからだろう。聞こえるかどうか定かでない声で呟く。
メイド同士でも誰が敵で誰が味方なのか、わからないのかもしれない。本音で言っているのか、社交辞令で
言っているのか、疑わしい。

「若、あまり無理はせぬよう」
「……ああ」

 皇華は背を向ける。
 退いていくのを背に感じながらも、ため息をつく。

 疑いだしたら止まらない。まだ街にいる人たちのほうがわかりやすい。
 財布と首飾りを握り締める。首飾りというのは語弊がある。紐に刀の鍔を通したものだ。
うっすらと龍の形を刻んである。金属の肌触りが心冷たくさせる。
これは皇華の祖父が幼い頃に渡した代物だ。おまえを護るお守り、なのだという。
 その意味をわからずに、皇華は伊達政宗が片目を鍔で覆うようにしていた
ようにかけて遊んだものだ。時々、そうやっている時に不思議なものを
見たり、探し物を見つけることができた。
そして……探さなければならない。夢も、今起こっている事件の手がかりも……

「……面白くねぇ……」

ぼそっと呟くと、皇華は部屋をあとにした。












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