氷河が来た日 




 田舎からこの地に移ったのはもう十年も前のこと。
 この草凪家に来た時、何もかも別世界のような気がしていた。
広い敷地、古めかしい木の匂い、異様に見える和服メイドと
洋服メイド。長い廊下の外は滑り込んでも問題ない緑の絨毯。
低い屋根はいつでも登れそうで……
 不安というよりは、「ずるい」と思っていた。



 母によれば草凪家は小野家と縁深い関係ある、と言っていた。
亡き父とは『ライバル』だったとか。
縁ある二人だったが、気だけは妙にあっていたらしく、

「もし、何かあった時は……」

 という約束をしていたらしい。




「よぅ、燐。生きていたか」

 若き当主は快く受け入れてくれた。
 和室にて、当主・草凪皇華は出迎えてくれた。
 ただの和室ではない。ここは食事する時に皆集まる場所でもあるが
今はそのことは知らない……だが、大きい和室だ。
三十畳ほどの大和室
 その上座に、その当主はいた。
 着流しに、キセル。無精髭の痩躯の男。
あぐらをかきながら無精髭を撫でる。
鋭い眼は獲物を見るかのように、三人を見つめている。
興味がないのか、退屈げだ。

「ええ、皇華様も相変わらずなようで……」

 『様』を強調するように言う。拳がぷるぷると震えているのが解る。

「人間そう簡単に変わるかよ。だが、話は聞いているぞ。
 帰る家があるってのに無茶しやがったらしいな。
まぁ、いい。昔話は後にしよう」

 皇華は立ち上がり、氷河と沙羅の前に立つ。

「よくきたな。小僧に……」

 それが、氷河に対して初めて話した言葉……
 威圧感を感じなかったわけじゃない。
 姉は震えていた。何か感じ取ったものがあったのか……
いつもは威圧する側の姉が怯えている?……
 キッと睨み付ける。

「小僧じゃない、氷河って名前がある」

 氷河は反発した。

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